騎士団の新人5人。
生徒代表も5人。

互いに向き合う形で並んだ計10人をバルロは眺める。
ケリーが選んだ生徒たちは背丈体格、何と性別に至るまで見事にバラバラ。
いっそ見事なほど個性的だった。

一番手の少年。
エイドと言ったか。
彼は得物は好きに選んでいいと言った特典を素直に受け取り弓を取った。

武器の数々はいつの間にか学園の保管庫から運び出され、きれいに並べてある。
選び放題というやつだが、手際のいいことだとバルロは呆れずにはいられない。
あの大混乱の中、大合唱に紛れずに黙々と用意していた奴がいるということだ。

ふと気付いてみればケリーに耳打ちしている少年がいた。
ケリーの頷きを得て、幾人かを連れて学園に駆け込んでいく。
その内いくらかの荷物を抱えて駆け出して来て、その荷物は武器一覧の中に加わることになった。
バルロは舌打ちしそうになるのをかろうじて止める。

面倒そうに観衆の後ろの位置にいるケリーは紛れもなくこの場の大将だった。
自ら考え、動く手足もある。
まるで王を仰ぎ見るかのような光を湛えた目をいくつも見た。
この学園に放り込んだのは間違いだったかもしれないとバルロは真剣に考え始める。

誰もケリーの外見と如才ない対応にまかれて気付かないが、彼はどう考えても危険人物だった。
バルロ自身もここに来るまではそう大事とも捉えていなかったのだが、現実を目の当たりにして初めて気付いた。

ケリーの一番恐ろしい才能。
油断だ。

彼はどうしてか、自分を無害に見せる術を心得ているようだった。
それがどれだけ厄介なものか、今更思い知る。
気付いた時には国の中枢に入り込まれていることも考えられる。

バルロは血飛沫舞う数多くの戦場も、政治を舞台にした馬鹿馬鹿しくも真剣な国の存亡と命をかけた交渉もいくつも経験し潜り抜けてきた。
どれもこれも綱渡りのような危ういバランスの上、たった一筋の光を掴むようなもので、その中でどれほどの仲間と、敵として相対した人物が過ぎ去っていったことか。
歴史というものは、特に激動の時代は、英雄と呼べる人物も、知将と言える人も、野望も忠誠も、無常にもその命ごと飲み込んで行った。

その中にすらこんな者はいなかった。
剣戟を交え、知略を尽くし、舌鋒を交わした者たちは皆、自らの存在を誇示し、より大きく多くをその手に入れようと表舞台に躍り出たものだ。

ケリーは違う。
彼のやり方はひっそりと静かに自分たちですら気付かぬうちに取り込む。
警戒のしようがないのだ。

幾分か剣呑になっていると自分でもわかる目でケリーを睨めばケリーは顔を上げる。
バルロは再び舌打ちしたくなった。

冗談ではない。
この視線に気付いただと?

彼を初めて見舞った時、警戒心を露に無意識に武器を探ったケリーを見ていた。
それなりに使えるやつだということなど当に承知の上。

だがそれを今まで失念していたのはどういう訳だ?
自分もケリーに取り込まれていたというのだろうか。
油断させられていた一人だとでも言うのか。
冗談ではないとバルロは心の中繰り返した。

あれは戦士だ。
視線ひとつに込められた意味を読み取ることが出来る歴戦の勇士。
今までバルロになど見向きもしなかったくせに、敵意を乗せて送った目線に目敏く気付いてみせる。

どれほどだ?
ぞろりとバルロの中に眠っていた獣が頭を擡げた。
お前はどれほど強い?

危機感に取って代わろうとするのは性。
どうしようも出来ない、知りたいと思う心。

競いたいと、あれの実力を知りたいと、バルロの心に普段は眠っている剣がきいんと高い音を鳴らした。








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もう好き勝手に(笑)